2018年6月2日土曜日

折戸の独習物理


今回はこのブログで初めての物理の参考書についてです。
赤本で有名な教学社から今年3月に出た「折戸の独習物理」です。



この本のアマゾンでのレビューは私が最初でした。
とはいえ、私がレビューを書いたのは発売から1か月以上たってから。
この本のレビューがそれまでなかったのが不思議です。

一言で言えば非常に良い本です。

そしてそう謳っていてもやってみると実は意外と少ない本当に独習できる本です。

なので、もっと早くにいくつかレビューが書かれていてもおかしくないと想ったのですが、ないということはそんなに売れていないのかな?という素朴な疑問をもちました。もしそうだとすれば大変もったいない話です。そのくらい良い本です。

1.この本はどのような本か?

さて、本題です。
この本は「授業の再現」と著者が最初に書いてある通り、非常に基本的な話をオーソドックスな解説でまとめてあります。

ただ、同じ授業の再現と言っても実況中継シリーズのような文字起こしのようなものではないので、かえって無駄がなく読みやすいと思います。

使い方は他の本のように「この本の効果的な使い方」という項目を作る必要のないシンプルさです。つまり、

読んで例題(演習)を解く

これを繰り返していくことで無理なく物理の基礎力がつく本だと思います。
ただし大切なのは

「必づ紙と鉛筆を用意して自分で書きながら読む」

ということです。
これはこの本に限ったことではありませんが物理と数学の本はともかく「手で読む」くらいの気持ちで取り組むことができるようになる最短コースです。

解答が非常に丁寧で、恐らく物理が得意でできる人から見ると時としてくどいレベルのものですらあると思います。しかし、このレベルを理解させる本ではこうあるべきだと私は思います。なので、この「くどいほどの丁寧さ」はこの本の非常に特筆すべき良い点だと言えます。

ともかく丁寧なので疑問点は残りにくいと思いますが、もしわからなかったとしても

「問題と解答解説を自分の手で写しながら何回も読む」

ということを繰り返せば

「あ、そうだったのか!」という瞬間

が必づ訪れると思います。そういう意味では物理ができない人にこそ手に取ってほしい本の一つだと私は断言しておきたいと思います。


2.受験物理と微積分

物理という科目は(特に高校範囲まででは)他の科目にはない特徴がいくつかあります。その一つは

「微積分によって組み立てられている体系を微積分なしで理解させる、という無茶ぶり」

であり、もう一つは、

「できる学生とできない学生の両極になりやすい」

という点です。

一つ目の微積分に関しては受験物理の世界では「微積分を使わなければ物理の本質がつかめない」という主義が駿台を中心としてあります。これはもちろん物理学という学問を考えた時には全く正論です。私も否定はしません。

しかし、受験物理では微積を使わなくても大学入試の問題は解けるようにできています(この点はむしろ受験生よりも出題者に同情すべきとすら個人的には思います)。
ですから、もちろん微積分を駆使した物理がわかりやすければそれでも良いのですが、だからと言って微積分にこだわりすぎる必要もないと思います。

この本でも、一応「大学への物理」というワンポイントが解説の中に時々挟まれて、そこで微積を使った場合の説明をしてありますが、それはより各々の基礎的な考え方により正確なイメージを持たせるための補足的なものになっていると思いました。そういう意味では基本的にこの本は

「基本をしっかりと理解させて、応用に耐えうる基礎力を付けさせる」

という目的に徹しているようです。


3.物理における「あ、そうだったのか!」

さて、先にあげた物理の特徴の2点目です。つまり、物理という科目は「できる学生とできない学生の両極になりやすい」という特徴です。これは高校で物理を取った経験のある人ならわかると思うのですが、同じテストでもクラスの中で100点やそれに近い点数を取る一部の少数派と「赤点にはならなかったけれど・・・」という物理が苦手な学生に別れて、実際に平均点に近い学生は少ないという現象が良く起こります。

これは物理という教科が「概念を具体的に理解できていてそれを使いこなせるかどうか」ということをストレートに問うてくる科目だから、という事いえると思います。

ようするに、物理という科目は一度しっかりとわかってしまえば、あとは演習などをこなしながら力を伸ばす(というより落とさない)ようにしておけば、テストで毎回満点もしくはそれに近い点数を取り続けやすい科目なのです。逆に言うとこの「しっかりわかる」という所ができていないとどんなに努力をしても低空飛行をしやすいし、たまに良い点を取ったとしても大きな波に翻弄されて安定して高得点の点数を当てにすることができない科目になってしまうのです。

この「しっかりわかる」ということはどういう事なのでしょう。これは実感を伴わないと理解しづらいとは思うのですが、物理の勉強をしている時に、特に自分がどうもよく理解できず、当然イメージもおぼつかない部分で、それでもあきらめずに格闘している中で

ある時突然「あ、そうだったのか!」と腑に落ちる瞬間

を経験する、そしてそれを数回(2回も経験するともうその感覚はわかるようになります)経験すると「しっかりわかる」という事の意味が分かると思います。もし、今この文章を読んでいる人が「そう言われてもわからないな」と思っていたら今:「そういうものなのか」と思ってください。と、言われても「わからないものはわからない」とそういう人は思うでしょう。数十年前の物理でゼロ戦(0点のこと)を飛ばしまくっていた私もそうでしたからその気持ちは痛いほどわかります。

そして、この本は前述したように「問題と解答解説を自分の手で写しながら読む」ということを実直に、もっと言えば愚直に何回も繰り返せば

ほとんどの人に「あ、そうだったのか!」という瞬間の体験をさせてくれる

はずです。


4.この本はどんな人に一番効果的か

物理の参考書には今まで多くの名著があります。また、対象とする読者のレベルも本によって違います。この本は「初学者から上級者まで」という推薦の言葉が帯に書いてあったりしますが、私が一通り読んで問題も全て手を動かして読んでみた実感から言えば、

・初心者
・初心者ではないけれど物理が苦手な人

に一番向くと思います。また、

・学校の物理は何とかなるけど模擬試験では今一つ、という人

にもいつの間にか壁を越えさせてくれる本になると思います。

そして、何度も手を動かしながら読んでください。帯に書いてある「参考書選びは先生選びだ。さぁ、折戸先生の授業を受けてみよう。」というほどの臨場感は全然ありませんが(帯と煽り文句というのはほとんどの場合、出版社が勝手に作るので、まぁ、こんなものなのでしょう)、鉛筆片手に3回読み終わった後「物理がわかった。解けるようになった」という気持ちがしっかりした自信と共に芽生えていると思います。

と、ここまで書いていて今思いました。

「そうだ、この本は(ちょっと厳しい)物理の家庭教師のような本なんだ」と。


5.他の物理の参考書と比べての特徴

最後に他の物理の良書と比較した時、この本にはどんな特徴があるか、を書いておきたいと思います。

古くから物理の学参にはいわゆる「名著」と呼ばれるものがいくつもあります。古典的な「親切な物理」、代ゼミの全盛期に一時代を築いた「前田の物理」、河合塾の「物理のエッセンス」、教学社の「体系(新体系、新新体系)物理」、ニュートンプレスに版元を変えて今でも東大受験生に良くも悪くも影響を与えている「難問題の系統と解き方 物理」、駿台の物理シリーズ等々。

面白いものでこうした物理の参考書は他の科目と比べて個性的なものが多く、それは言い換えれば「非常に癖のあるものが多い」とも言えます。ですから、これらの本は「信者」と言えるほどの熱狂的なファンを受験生や、かつての受験生に持っています。そしてどれにも共通するのはどれも例外なく非常に個性豊かな参考書と言えます。反面、こうした物理の名著には熱狂的ファンと同時に(時として過激なほどの)アンチの両方がつくという現象がよく起こります。

そういう意味では、この本はオーソドックスなので変な癖もないのでアンチがつきにくいと思います。そして、逆に熱狂的なファンもあまり生まれないのではないかと思います。

しかし、この本を何回も読み直し、10年後、20年後に様々な分野の第一線で活躍する人の中に

「受験生時代にあの本に出会ったお蔭で私は物理ができるようになった」

と語る人が何人も出てくるのではないでしょうか。この本はそういう本だと思います。


尚、著者のサイト「折戸の物理」も参考になります。
ぜひご覧ください。

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